【社会】「膝の痛み」を軽視してはいけない理由。“歩けなくなる重病”の予備軍が、50代の2人に1人とも

【社会】「膝の痛み」を軽視してはいけない理由。“歩けなくなる重病”の予備軍が、50代の2人に1人とも

膝の痛みは多くの人が経験するものですが、それを軽視することがいかに危険かを知っておくべきです。特に50代以降は注意が必要で、痛みを放置することで進行性の障害に繋がるケースもあります。適切な診断と予防策が、今後の生活の質を大きく左右します。

 最近膝が痛むと感じる人は要注意!加齢のせいだと放置したら、生活の質を著しく下げてしまう恐れも──。50代の2人に1人が予備軍といわれる国民病、「変形性膝関節症」重症化の恐怖を専門家が解説する。

◆痛みが出たらすでに重症!?軟骨がすり減る「恐怖の病」

「ごめん、旅行には行けない。お父さん膝が痛くて歩けないんだよ」

 会社員の仲村雄一さん(51歳)は、高校生の娘からの旅行の誘いに、そう返すしかなかった。まだまだ働き盛りの50代。「まさか自分がこんなに不自由になるなんて」と、うなだれる。

 1年前、散歩をすると膝が痛くなり、病院に行くと「変形性膝関節症」と診断された。症状の悪化を避けるため、今では歩数制限が課せられ、原則走ることも禁止だ。

 痛風や運動による故障など、膝を痛める原因は多々あるが、仲村さんが患った変形性膝関節症は他人事ではない。

 東京女子医科大学整形外科の岡崎賢教授は、「50代でも2割、60代以上では半数が変形性膝関節症。もはや国民病とも呼べる疾患」だと警鐘を鳴らす。

「変形性膝関節症は膝の軟骨がすり減って炎症が起こり、膝が痛くなる疾患。ですが、膝軟骨には神経が通ってないため初期の段階では痛みは軽いも、気づいたときにはすでに軟骨のほとんどがすり減り重症化しているケースもあります」

 変形性膝関節症の恐ろしいところは、現代医療をもってしてもすり減った軟骨が戻ることはないという点だ。

「症状が進行し、軟骨がなくなると痛みを軽減するには人工関節以外に手立てがないというケースも多く見てきました。変形性膝関節症は通常10年単位で進行しますが、中には急激に症状が進み、痛みを自覚してから2〜3年で歩けなくなる人も。少しでも違和感があれば、MRI検査をしましょう」

◆将来高い確率で重症化する人も

 また、まつだ整形外科クリニックの松田芳和医師は、次のように訴える。

「重症化すると膝の痛みで旅行にも行けないし、スポーツなんてもってのほか。仕事に支障が出れば、生活にも直結します。中年世代の中には生涯運動を続けたいと考えている人も多い。変形性膝関節症がそうした将来設計に影響を及ぼすことになるのです。実際、要支援者となる原因の1位は関節疾患。その中でも膝の痛みがダントツです」

 また、高知大学医学部整形外科の池内昌彦教授は、「年を重ねたら膝が痛いのは当然、という認識の人も多く、膝痛はほかの痛みと比べて軽視されがち」と指摘する。

「膝の痛みが心血管障害や糖尿病、さらには認知症などに繋がるという研究結果も出ており侮れません。過度な運動は膝の症状を悪化させますが、膝軟骨の摩擦を軽減する潤滑油は関節を動かさないと分泌されないため、適度な運動も大切。仕事が忙しくて運動不足なんて人は要注意です。ただし、膝を痛めやすい骨格の人もいれば、肥満、外傷歴などその因子は多種多様。高確率で将来重症化する因子を持っている人もいます」

 すなわち、現時点で健康的な生活を送りアクティブに過ごしていても、すでに変形性膝関節症となる“爆弾”を抱えている人が一定数存在するのだ。少しでも違和感を覚えたら病院に行くことが大切だ。

◆高額出費は免れない?変形性膝関節症の治療とは

 変形性膝関節症の治療法には、どんなものがあるのか。前出の岡崎氏に話を聞いた。

「治療では内服薬の服用やヒアルロン酸注射、リハビリなどの保存療法を施し、回復しなければ手術療法に移行。軽度~中度なら関節温存手術、重度なら人工膝関節置換術を行います。関節温存手術には高位脛骨骨切り術などがあり、軟骨がすり減る原因となる膝の変形を正常に戻します」

 岡崎氏は、「人工関節手術はあくまで最後の手段」と言う。

「毎年10万人が人工膝関節置換術を受けており、歩く痛みが和らぐよい治療ですが、走るのは難しくなってしまう。重度の人は致し方ないですが、軟骨がなくならないよう保存療法に注力したり、早めに関節温存手術を検討してほしい」

 関節温存手術は保険適用なので約30万~40万円。人工膝関節置換術は人工関節そのものの値段が加わり、50万~60万円ほど。ただ、高額療養費制度により実質負担は約4万〜10万円に収まるという。

◆初期段階なら8割の人に効果が出る“再生医療”

 さらに「第三の治療」と言われるのが再生医療。第一人者でもある松田氏が解説する。

「自身の血液や脂肪を加工、培養し膝関節に投与して組織を修復する治療法で、自身の『成長因子』を用いるため、拒絶反応が少なく有効性や持続性が期待できます。仕事などで入院できない人や高齢で手術できない人、スポーツを継続したい人に向いています」

 ’14年には、再生医療に関する法律も制定されている。

「法で認められたれっきとした治療法ですが、すり減った膝軟骨が魔法のように復活するものだと過度に期待する人もいます。効き目には個人差がり、末期だとどうしても効果は出にくく、一方で初期から進行期にかけては効果のでる割合は80%超え。費用は一回15万~20万円ほど。長年膝痛に悩まされ、市販の鎮痛剤などを都度購入している人であれば検討するのも手です」

 もしもの時には自分に合った治療法を吟味したい。

◆【初期症状】チェックシート

□急に立ち上がったときに痛い

□階段の上り下りの際に痛い

□歩き始めは痛いが歩行中は平気

□運動中は平気だが運動後に痛い

□重いものを持ち上げると痛い

□膝に重心をかけるとぐらつく

□起床時、膝に謎の違和感がある

□時々膝が熱をもった感覚がする

◆【リスク】チェックシート

□若い頃、激しい運動で膝を酷使

□生まれつきO脚やX脚である

□両親や祖父母が膝を痛めている

□若い頃よりも5㎏以上太った

※取材を基に編集部作成

◆重症化までの流れ

《健康な膝》
膝関節は、大腿骨、下腿骨、膝蓋骨の3つの骨と軟骨、半月板などのクッション材、大腿四頭筋という筋肉から構成される。健康な膝関節は、衝撃を吸収し、適切に体重を支える

《初期》
軟骨がすり減り始めた段階。これにより徐々に「膝関節可動域の制限」や「筋力の低下」を感じるようになる。日常動作では、歩いたり立ち上がったりする際に少し違和感がある

《中期》
軟骨の隙間が狭くなり、脚がO脚やX脚に変形。この頃には膝が完全に伸びなくなったり、立ち上がりが大変になったりする。膝が外側にスライドするように動揺する現象も

《末期》
軟骨が完全になくなった状態。こうなると、膝をほとんど動かせなくなってしまう。また、靭帯を損傷している可能性もあり、歩行には杖が必要となる場合もある

【東京女子医科大学整形外科・岡崎 賢氏】
主任教授。専門領域と主な術式は膝関節外科。膝の健康啓発活動を行う「Knee Smileひざの健康推進プロジェクト」の監修も務める

【まつだ整形外科クリニック・松田芳和氏】
院長。膝の再生医療の第一人者で、再生医療関連事業社のセルソースと協働。同院では、膝の定期検診「膝ドック」も行う

高知大学医学部整形外科・池内昌彦氏】
教授。高知県スポーツドクター協議会会長も務めるなど、中高年だけでなく、スポーツ愛好家に向けた膝の治療も得意としている

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[膝の痛み]軽視してはいけない危険な理由]―
5年前まではトライアスロンにも毎年参加していたという仲村さん。「膝が痛いせいで旅行も仕事も満足にできない!」。若くして生活が制限され意気消沈する

(出典 news.nicovideo.jp)

続きを読む

続きを見る