【社会】被害者なのに、口座凍結のリスクも? 新たな詐欺対策案を元検事の弁護士が批判

【社会】被害者なのに、口座凍結のリスクも? 新たな詐欺対策案を元検事の弁護士が批判

この記事は、詐欺被害者に対する新たな対策案が持つ問題点を鋭く指摘しています。特に、被害者自身が口座凍結のリスクを抱える可能性があるという現状は、法の支えを必要としている人々にとって深刻な懸念です。このような対策が本当に効果的なのか、より公正な施策を求める声を高める必要があります。

詐欺被害の対策として、政府が架空名義口座を使った捜査手法の導入を検討していると共同通信などが報じています。架空名義の口座を開設して犯罪グループの動きを把握する目的とのことです。

しかし、この捜査手法により、一般人の口座が突然使えなくなる可能性があると専門家は指摘します。

元検事で、口座凍結解除の経験もある西山晴基弁護士に詳しく聞きました。

●政府が架空名義口座で新たな詐欺対策へ

政府は、SNS型詐欺や特殊詐欺への対策として、「架空名義口座」を使った新たな捜査手法を導入する方針を発表しました。

この手法は、警察と金融機関が連携し、実在しない名義で開設した口座を犯罪グループに利用させることで、資金の流れを追跡・摘発に繋げるというものです。

詐欺の被害が後を絶たない中、実効性のある新たな対策として注目されていますが、その一方で、誤認口座凍結が急増するリスクもあります。

●「疑い」だけで口座凍結ができる現在の制度

現行の振込詐欺救済法では、詐欺などの犯罪被害金が振り込まれた「疑い」があれば、口座凍結できる仕組みになっています。

実際に、捜査機関は、犯罪被害金等が当該口座を経由した疑いがあれば、本人の認識を確認することなく、金融機関に凍結を依頼し、金融機関はその依頼に応じて即座に口座を凍結する運用をしています。

●知らないうちに「お金の通り道」にされてしまうケースが急増?

詐欺グループは、足がつかないようにするため、自分たちの預貯金口座を使いません。

「口座売買屋」から入手した他人の口座に振り込ませたうえで、最終的に自分たちのもとに運ばせます。この過程で犯罪から得られたお金であることを分からなくすることを、マネーロンダリング資金洗浄)と言います。

ただし、近年、マネーロンダリング資金洗浄)に利用される口座は、売買された口座だけではありません。詳しく説明すると長くなるので別の機会の解説に譲りますが、たとえば、

・SNSでの「副業」だと思い込ませ、そのための口座という名目で詐欺グループの入出金に口座を利用されてしまうケース

・〇〇ペイ返金詐欺被害(返金のために口座を使うと思い込まされて、逆に支払い操作をさせられてお金を取られる詐欺)を通じて口座を利用されてしまうケース

などがあります。

また、最近話題となっている「警察官や検察官をかたる詐欺」でも、被害に遭った方の口座が利用され、口座凍結されてしまうケースがあります。

詐欺グループは、お金をだまし取り続けた挙句、今度は、被害者の口座に「誤送金」を装って振り込みをした上で、そのお金を「正しい送金先に返してほしい」と偽って別口座への送金を指示し、犯罪資金の中継地点として利用しようとするのです。

被害に遭われている方としては、よく分からないお金を自分の口座においたままにしておくこと自体恐いですし、それまでにだまされ続けている状態なので、犯人の言葉を信じてしまい、指定されたとおり送金してしまいます。

その結果、被害に遭い続けていたにもかかわらず、口座の凍結までされてしまうのです。

●架空名義口座導入で「凍結対象」がさらに拡大する可能性

架空名義口座が導入されれば、このような資金洗浄マネーロンダリング)の過程に巻き込まれ一般市民の口座が凍結される事態が、今後深刻化する可能性があります。

既に「疑わしければ凍結」という、ある意味、予防的な凍結がされている中で、架空名義口座が導入されれば、警察がそうした「疑い」を持つ機会は当然増えます。

さらに、多くの詐欺では、被害者から送金されたお金は、即座に複数の口座を経由して分散・送金されるため、警察としては、架空名義口座にお金が振り込まれた場合、それまで経由してきた口座を全て凍結する運用をする可能性があります。

そのため、口座凍結が急増するおそれがあるわけです。

●凍結された側が「疑いを晴らす」立場に立たされる構造

いったん口座が凍結されると、本人はその理由を明確に知らされないまま、資金の出し入れが一切できなくなります。

しかも、本来は、警察が犯罪を立証する立場にいるはずですが、実態としては、「無関係であること」を証明する責任が本人に課されるという、立場の逆転が起きています。

現在、その点についての救済の道は制度上設けられていません。

そのため、架空名義口座の導入にあたっては、口座凍結解除の手続きを明確化するなどの法整備も不可欠になってくるのではないかと思われます。

【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:https://rei-law.com/

被害者なのに、口座凍結のリスクも? 新たな詐欺対策案を元検事の弁護士が批判

(出典 news.nicovideo.jp)

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