【芸能】20代では「テレビ局の顔」だが、30代では「お払い箱」…キー局女性アナの大量離職が続くテレビ局の構造的欠陥

【芸能】20代では「テレビ局の顔」だが、30代では「お払い箱」…キー局女性アナの大量離職が続くテレビ局の構造的欠陥

テレビ業界の構造的欠陥がこれほど明確に表れる事態に、改善が急務ですね。若手アナウンサーが活躍できる環境を整えることが、業界の未来を考える上で重要だと感じます。

テレビ局の有名女性アナウンサーの退社が相次いで報じられている。なぜキー局アナを辞めてフリーランスを選ぶのか。元テレビ東京社員で桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「20代の時はテレビ局の顔、広告塔となるが、キャリアを積むほど居場所がなくなる。退社の背景には、女性アナを使い捨てにするテレビ局の問題がある」という――。

■2023年に起きた女性アナウンサーの大量流出

今回は、テレビ局の人材問題として注目を浴びている「女性アナウンサーの大量流出」について検証してみたい。

アナウンサーはその局の「顔」である。アナウンサーのふるまいや物言いで局のイメージが変わるだろうし、視聴者がアナウンサーに抱く印象も局イメージに左右されるだろう。特に、女性アナは男性に比べて「華やか」で「目立つ」ので、局のイメージアップやイメージダウンに直結しやすい。それだけに、「看板」となる女性アナに辞められてしまうのは局にとっては手痛いはずだ。

昨年2023年は、テレビ局人気女性アナの退社ラッシュが続いた。フジテレビの三田友梨佳氏、テレビ東京森香澄氏、朝日放送のヒロド歩美氏、TBSの山本里菜氏、みな各局の看板アナである。

かつては、「アナウンサー」と言えば「局」に属するイメージが強く、「局を辞める」ことは「アナウンサーを辞めなければならない」ことを意味した。しかし、いまはそうではない。

■なぜ「局アナ」を辞めて「フリーランス」になるのか

「ミタパン」と呼ばれた三田氏は芸能事務所に所属。森氏も芸能事務所に所属し、Instagramで約66万人、TikTokで約63万人のフォロワーを抱え、目標通りインフルエンサーとなった。ヒロド氏は芸能事務所の争奪戦も予想されたが、現在はフリーとして活躍している。山本氏は入社前に所属していたセント・フォースでフリーアナウンサーとしての活動を再開した。

2024年に入っても、女性アナの流出はとどまることを知らない。私の古巣のテレ東からも続々と女性アナの退社が決定している。3月末には「モヤモヤさまぁ~ず2」の3代目アシスタントとして人気が定着してきた福田典子氏が、6月末には「出没!アド街ック天国」や「ワールドビジネスサテライト」の須黒清華氏、「ゴッドタン」や「シナぷしゅ」の松丸友紀氏の両者がフリーアナウンサーに転身する。

須黒氏、松丸氏の二人はともにベテランで、私も仕事を何度かご一緒したが、実力、人柄共に抜群の逸材なだけに退社が惜しまれる。テレ東にとって「大きな損失」である。なぜそうなってしまったのか、テレ東はよく考えた方がよい。

■フリーになるのは「目立ちたい」「カネのため」なのか

このように、女性アナの流出事例には枚挙に暇がない。なぜ彼女たちは、テレビ局の「顔」や「看板」という華やかで安泰な地位を捨てて、フリーという荒野へと足を踏み出すのか。

女性アナにもさまざまなタイプがいる。なかには視聴者の指摘通り、考えも甘く、「目立ちたい」という自分よがりなアナウンサーもいる。しかし、そんなアナウンサーはひと握りである。若いうちには、「浅はか」ともとれる思いつきで気軽に退職する者もいる。だが、私が今回検証したいのは、そういった類いの女性アナの流出現象ではない。“名実共にある”女性アナの活路を塞ぐテレビ局の内部構造について問題提起をすることにある。

前回の制作現場のクリエイターたちの事例から推測すれば、そこには“精神的な”メリットという前向きな理由がありそうだ。

だが、現実はそんなに甘いものではない。テレビ局という「閉鎖された世界」で繰り広げられているアナウンサーを取り巻く人間模様は、視聴者が思っている以上にドロドロした壮絶なものなのだ。

■テレ東を去った3人の女性アナから見えてくるもの

今年になって退職が報道されたテレ東アナ、福田氏、須黒氏、松丸氏3人の共通点は、以下の4つだ。

・アナウンサー歴10年を超えるベテランであること
・30~40代という年齢であること
・結婚をして出産をしたこと
・フリーアナウンサーへの道を選んでいること

福田氏は現在33歳、2013年にRKB毎日放送に入社、2016年にテレ東に移籍した。須黒氏は39歳、2007年テレ東入社。松丸氏は42歳、2004年入社である。

クリエイターと同じく、30~40代というともっとも円熟期と言われるベテランになり、これから仕事がますますおもしろくなってくるはずの年齢である。そんなタイミングで退社しなければならない理由とは、いったい何なのか。

以下は、女性アナが視聴者から受けることの多い5つの批判である。

① タレントやミスコン出身者が多い
② ちやほやされて、タレント気取り
③ 派手好き、交友関係が派手
④ プロ野球選手や経営者との結婚で、「玉の輿」を狙っている
⑤ フリーになりたがり、「カネ」に欲深い

こうした点だけが独り歩きすることで、女性アナたちの離職は、常に表層的かつ単に“スキャンダラスな”週刊誌などのネタとして消費されるだけになっている。そのため、本当に検証されるべき構造的な欠陥が看過されてしまっているのだ。

■「テレビの広告塔」だからこその苦悩

まず、①の「タレントやミスコン出身者が多い」という批判だが、アナウンサーはタレントと違って、テレビ局の「正社員」として採用されることに着目してほしい。いわゆる会社員という「サラリーマン」なのである。

1980年代後半から1990年代前半にかけて、テレビ局がプロのアイドルやモデル顔負けの容姿端麗な女性アナを採用する傾向が強くなった。1986年には男女雇用均等法が施行され、それに便乗して局がアピールしたかったという意図もあるが、最も大きな理由は「バブル景気」である。社会全体が浮かれたバブルにふさわしく、高学歴は当たり前で「華がある」ことが重要視されるようになったのだ。

それはバブルの崩壊とともに、顕著化してゆく。そこにあるのは、テレビ局の「視聴率ありき」の商業主義だ。バブル崩壊で売り上げが苦しくなった局にとって、女性アナは芸能人を使うより安く済み、むしろ視聴者受けがいい。女性アナは「商品化」され、「テレビ局の広告塔」となってゆく。実力や実績は関係なく、局の幹部の意向で採用が決まってしまうことも多かった。

このような状況であるから、アナウンサー志望の女性は学生時代から涙ぐましい努力をする。各局が主催するアナウンススクールに通って技術を高めるのは当たり前で、メイクの技術を磨き、歯列矯正やホワイトニング、髪のトリートメント、ダイエットやエステまでおこなって「他人より美しく見える」ように自分に投資をする。男性との接触を避けたり、写真撮影や飲み会の参加を控えたりするのは日常茶飯事で、アナウンサーの出身が多いという理由で大学を選ぶ者もいるほどだ。

■「ちやほやされて、タレント気取り」のウソ

そんな彼女たちの目的は何か。

「アナウンサーになること」である。「タレントやミスコン出身者が多い」と言うが、タレントになりたかったりミスコンで優勝したかったりするわけではない。タレントやミスコンは単なるステップだ。アナウンサーになるための手段に過ぎない。

それは男性アナウンサーにはないハードルだ。女性アナはすでにこの段階で、「女性アナウンサーは容姿端麗でなければならない」というアンコンシャス・バイアスと過剰で孤独な「ルッキズムという闘い」にさらされているのである。

そんな努力をしても、アナウンサーの狭き門をくぐれるのはひと握りしかいない。そういう意味においても、女性アナは入社したときから、サラリーマンでありながら「特別な存在」なのだ。であるから、②の「ちやほやされて、タレント気取り」というように見えてしまうのは仕方がないことだ。だが、実態はそうではない。女性アナには、意外とシビアな現実が待ち受けている。それが次の③「派手好き、交友関係が派手」という批判に隠された真実である。

■プロ野球選手や経営者との結婚はほんの一部

視聴者や世間の人が、女性アナは「派手好き、交友関係が派手」だと思うのはどうしてだろうか。週刊誌やネットで男女関係を暴露されたり、交際をすっぱ抜かれたり、結婚相手を勝手に公表されたりするからだ。

局が採用時に女性アナの容姿を重要視するようになったことで、女性アナの「タレント化」が始まった。つまりタレントとしての価値を持ち始めたのである。そして当然、週刊誌やSNSのターゲットとなる。タレントには事務所やマネージャーがついている。

しかし、女性アナは一般局員なので、事務所にも所属していないし、マネージャーもいない。誰もパパラッチからは守ってくれないし、記事を握りつぶしてもくれない。それが、女性アナが交友関係を暴露されて、派手好きだというイメージがつきやすい理由である。

④の「プロ野球選手や経営者との結婚で、『玉の輿』を狙っている」という批判に関してだが、そんなアナウンサーはほんの一部である。ほとんどの人が普通の結婚をしている。だが、ほんの一例に過ぎなくても目立ってしまうので、多いように感じてしまうのだ。

アナウンサーは自分の時間が限られている。バラエティの収録は基本的にタレント合わせだし、ニュースや報道の現場では「待機」が多く、時間は自分の好きには使えない。そんな狭い世界で生きている女性アナが出会うのは、取材でインタビューをしたスポーツ選手や経営者に絞られてしまうというのも致し方ないことだ。

■フリーになっても成功できるとは限らない

⑤の「フリーになりたがり、『カネ』に欲深い」という批判は的外れだ。「フリーになる」のはカネのためではないし、欲深くカネを求めるのであればフリーにはならないだろう。よっぽど売れない限り、高給のテレビ局員の生涯賃金を超えることはない。

テレ東森香澄アナは『週刊プレイボーイ』でグラビアや『anan』の表紙を飾ったり、ドラマ「たとえあなたを忘れても」に女優として出演したりして、それを自身のインスタグラムで発表している。

活動の幅を広げていくことを発信しない人がいるだろうか。フリーになるということは、森氏のおこないが示すように「どんな仕事でも貪欲にやらなければならない」ことを意味している。

一方、結婚して配偶者がいる女性アナは、生活面においては余裕があるため、自由でストレスの少ないフリーを選んで挑戦することができる。それが上記のテレ東のベテラン女性アナ3人の共通点となっている理由である。

■30~40代女性アナが直面する「人事異動」の恐怖

テレビ局は、いま激動の渦の中にある。地上波の売り上げは下がる一方で歯止めが利かない。総じて、民放各局は「人減らし」に傾いている。正直なところ、女性アナの流出も「仕方がない」と黙認しているのが実情だろう。そんななか、局に在籍している女性アナたちの焦りも相当なものであろうことは、想像に難くない。

1990年代には、女性アナは「ちやほや」されて、社内でも特別な存在だった。しかし、今や女性アナであることはステータスでもなくなってきている。そしてもちろん、楽をして給料がもらえる仕事でもない。

20代のうちは、早朝や深夜勤務、ロケが多い不規則な就労シフトを強いられる。加えて、テレビ局の大きな激変である「配信」に関する仕事も制作現場同様、アナウンサーにとっては大きな負担となりつつある。アナウンサーの賞味期限は長いようで短い。そんななか、ベテランのアナウンサーが、年を取るにつれ隅に追いやられてゆく感覚を覚えるのは、制作のクリエイターより強いに違いない。

そしてキャリアを積んで30、40代になった彼女たちを待っているのは、「人事異動」という恐怖である。志を持ってアナウンサーをまっとうしてきた人であればあるほど、管理職になって現場から外され、若い人たちのシフトや役割を決めたりすることで終わってゆく日々に虚しさを感じる。

■キャリアを積むほど居場所がなくなる

しかし、管理職とはいえ、アナウンスの仕事に関わっているうちはまだいい方だ。キャリアを積んでも30歳を過ぎて結婚したり、子どもができたりすると、なぜか別の部署に異動させられることが多くなってくる。特に、「スペシャリストよりジェネラリスト」という方針が強くなってきている昨今では、アナウンサーといえども「いろんな仕事ができる」能力を求められる。

だが、若いころから「アナウンサーになること」だけを目標に頑張ってきた彼女たちが、ある日突然、会社の都合でまったく違う仕事をやれと言われても戸惑うばかりであることは至極、当然である。

この人事異動は女性アナにとっては“精神的に”とても厳しいものだ。会社は「本人の適性を鑑みて“前向きな”人事をおこなった」と言うだろうが、世間はそうは見てくれないからである。ネットや週刊誌では「人気が落ちたからだ」と騒がれ、「左遷された」と揶揄される。“ニュースバリューのある”彼女たちの醜聞ほどネタになる。格好の餌食とはこのことだ。そもそも一般社員の異動なのだから内部情報であるはずなのに、全国津々浦々にまでバレてしまうことはとてもつらい

そんな事情もあって、「他部署に異動させられるのではないか」と不安に感じた女性アナたちが、結婚や出産を機に、イバラの道とわかっていながらフリーという選択をする。それは、ほかに選択肢がないからである。

1992年テレビ東京初の新卒採用女性アナとして入社した佐々木明子氏は、入社当初からテレ東において「スポーツの顔」として活躍した。だが、あるとき一念発起して自ら志望し、2006年から同局初の海外赴任アナとしてニューヨーク支局に勤務した。彼女はうまく人事の仕組みをパラダイムシフトできたが、こういった例は稀である。

■テレビ局は「大量流出」を憂いているのか

以上のような考察をしてゆくと、テレビ局が社員であるはずの女性アナを本当に大切に思っているのか、また今回のような「大量流出」を憂いているのか、そしてその対策をまじめに考えているのかは疑問である。

というのも、私の記憶のなかにはある出来事があるからだ。それは、テレ東における「アナウンサー部屋廃止」事件である。

2020年にテレ東の現役女性アナたちの音声が盗聴され、あるツイッターアカウントに公開されてしまったことが波紋を広げた。音声は、2人の女性アナが実名を挙げてスタッフや先輩アナの悪口を言っている内容だったからである。その歯に衣を着せない発言もさることながら、「誰が盗聴したのか」「流出させたのは誰か」と社内では犯人探しがおこなわれる騒動にまで発展した。

そしてこの一件をきっかけに、テレ東内ではアナウンサーが待機する「アナウンサー部屋」が廃止され、アナウンサーたちは総務部や人事部など管理部門のフロアのど真ん中に席を移動させられた。これではアナウンサーたちはたまったものじゃないだろう。ほとんど、「監視されている」ようなものだ。

アナウンサーというのは人前に出る特殊な仕事だ。現場の仕事が終わって息抜きをしたり、皆でおしゃべりをしながら情報交換したりする場が必要である。それなのに、外でも人目にさらされ、社内でも人目にさらされるとなると、メンタルがやられても不思議ではない。事務職の人たちのなかにいると、おちおち雑談もできないだろう。アナウンサー本人たちのことを少しも考えていない措置だと、当時の私は驚いたものだった。

■何が起こっても「局は守ってくれない」

当のアナウンサーたちも、何が起こっても「局は守ってくれない」ことを強く認識したに違いない。そういった忸怩たる思いの蓄積も、退職への道を選ばせる理由になっているのではないか。

たとえば、誰かが退職をニュースサイトに抜かれる事件が起こったりしたときにも、同じようなことをやっているのではないだろうか。そう懸念している。本人は何も悪くないのに、もし会社から注意勧告を受けるようなことがあれば、「いったい誰を守っているのか」「この人(上司)は自分の保身のためにそんなことを言っているのか」と疑いたくもなり、虚しさやもどかしさを感じるだろう。

今回、元テレ東のアナウンサーに取材をすることができた。茅原ますみ氏である。茅原氏は1987年に入社。当時はアナウンサーを志望していたが、かなわず報道局の記者に配属された。そして元フジテレビアナウンサーの笠井信輔氏と結婚して出産後、アナウンス室に異動した。テレビ業界初の「ママになってからアナウンサーになった」という経歴の茅原氏は、現在はフリーアナウンサーとしてさまざまなかたちで情報発信をおこなっている。

■自分の価値を見失わせる「テレビ局の理不尽」

記者出身だけあって、茅原氏はしっかりと情報の内容を自分なりに解釈して読む。そのアナウンスぶりには定評があり、テレ東のニュース番組では重宝された。

ニュース番組のなかの企画コーナーも自ら作り、放送していた。そんな茅原氏に転機が訪れる。3人目の子どもが幼稚園に入ったころ突然、古巣の報道局に戻されたのだ。都庁と厚生労働省担当記者になった茅原氏は、あまりの忙しさに「残業でどんなに夜遅くまで働いてもいいので、せめて幼稚園の送りはしたい」と、朝だけ30分の時短を申し出た。すると当時の上司から、「そんなことは認められない。もしどうしてもというなら、人事異動をする」と言われたという。

茅原氏は意志を曲げず、時短勤務を敢行。結果、事務系の部署に人事異動をされたが、その出来事はその後の女性社員の環境づくりやロールモデルの途を拓くこととなった。茅原氏は言う。

「その当時は我慢するしかなかったんです。でも、いまはそういう時代ではないですよね。いわゆる『地の時代』から『風の時代』に変わりつつある。時間だって仕事だってシェアできる。働き方だって柔軟に考えられるはずです」

それが近年、女性アナが大量にテレビ局を辞めてゆく理由のひとつだと語る。そこには前述したような、「理不尽な会社の仕打ち」もあるだろう。そしてさらには……。

「どんなに忙しくても、つらくても、子どもを抱えていても、『やりがい』があればアナウンサーは乗り越えられるものなんです。でも、『誇り』や『やっている意味』がないのかなと思う瞬間があって、そんなときにそのままやっていく『価値』を見いだせなくなってしまうんです」

「私でなくてもいいのよね」と思いながら仕事をするのは、つらいことだ。茅原氏の例を見ても、テレビ局がいかに女性アナを将棋の駒のように考えているかがわかるだろう。

■人事異動、喪失感、新旧交代…

「人事異動」という恐怖、ふと気がついたときに訪れる「喪失感」、若手アナウンサーの台頭による「新旧交代」、そしてもうひとつ私が女性アナの大量流出の原因として挙げたいのが、「AIの台頭」である。

NHKでは現在、「AIアナウンス」の開発に余念がない。「おはよう日本」の一部ニュースにも導入が始まっている。民放でもテレビ朝日に「AIアナウンサー」の花里ゆいなが登場するなど、人間の女性アナに代わってAIが起用されることが増えている。

私は大学での映像研究の一環としてのドキュメンタリー制作に「VOICEPEAK」というソフトを使っている。これは最新のAI音声合成技術を使ってナレーションを読み上げることができるというものだ。6人のナレーター(男性3名、女性3名)が、感情パラメータによって喜怒哀楽を表現するなど、かなり精巧に作られていて重宝している。そして何よりも、「読み違えや失敗をしない」ことが利点である。「疲れた」と文句を言うこともない。

こういった技術の進歩も、アナウンサーたちに危機感を抱かせる原因となっていることは否めない。

■テレビ局はいつまで女性アナを使い捨てにするのか

以上、女性アナの局からの大量流出についてその理由となる構造的な欠陥を検証してきたが、それらを踏まえて最後に私から解決策の提案をしたい。

例えば、AIアナウンスの目的はアナウンサーの仕事を奪うことではない。大事なのは「役割分担」をするということだ。アナウンスをAIに任せる分、アナウンサーは取材や企画制作、情報発信に力を注ぐことができる。このように、女性アナの「役目」をちゃんと明確にしてあげられるような処遇をするべきだ。特に、キャリアを重ねた女性アナは顔も広いし、取材能力も高い。そんなスキルを使わない手はない。

「新旧交代」や「AIの台頭」は時代の流れで仕方がないところもあるだろう。だが、会社が「人事異動」を恐怖に感じないような仕組みや彼女たちが「喪失感」を抱かないような工夫をしてあげることはできるのではないだろうか。

アメリカにはアナウンサーという職業はない。したがって、「女性アナウンサー」という概念もない。番組の中心となって記者の原稿を最終的にまとめるという意味から「アンカー」と呼ばれる職種の人が、男女とも年齢に関係なく個性や能力を重視されて登用される。

こういった役割を女性アナに与えてゆくことで、本人もプライドを持ち、安心して仕事に打ち込むことができるのではないか。だが、これらは局が重い腰をあげて改革に乗り出さない限り、実現するものではない。

■女性アナの活路は閉ざされたまま

では、そんな場合には、女性アナの活路は閉ざされてしまうのだろうか。いや、そうではない。

結婚と出産を経たベテラン女性アナが、「育児も仕事もどちらも両立したい」という思いから決断をして離職をする。それはいま一度、「立ち止まって、自らの働き方を考えたい」という思いからだろう。そういう意味では、女性アナの大量流出は決して悪いことではない。私はそう考えている。多様性の社会で、情報発信の方法も広がっている。活躍の場は少なくないはずだ。

局の都合で商品化・タレント化され、「広告塔」として世俗の関心の目にさらされ、時には叩かれ、やりたいことも我慢し、好きなことも犠牲にしてきた。社内では「ガラスの天井」に阻まれ、セクハラにも耐えてきた。

いまこそ、そんな女性アナたちの、エンパワメントの時なのだ。

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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。

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アニメ「サザエさん」放送開始45周年記念「ありがとう45周年!みんなのサザエさん展」オープニングセレモニーで司会を担当したフジテレビの三田友梨佳アナウンサー=2015年2月4日、東京都中央区の三越日本橋本店 – 写真=時事通信フォト

(出典 news.nicovideo.jp)

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